義理の母は働き者だ。いつ行ってものんびり座っているところなんて見たことがなかった。
忙しいその口からは機関銃のごとく言葉が発射される。
「あの、お義母さん」の「あ」の字すら言う間がない。
そして、その合間をぬって食事やお茶を「これが美味しい。これを食べな」と、どんどんどんどん勧めてくる。きりがなく1人前以上(の料理)の量だ。
その義母は植物に栄養を与えるのも上手で、ちょっとしおれかけた鉢植えも元気になっていく。
ちんまりしてたシンピジウムとか、デンドロビウムが見事な盛り上がりを見せる。
自宅の屋上はプチ園芸場と化していた。
ちなみに義理の兄も働き者である。自営業というのもあるだろうが、家族皆がはたらいている印象である。
それは、私にも見慣れた光景だ。私の実家の兼業農家にも休日はない。
そんなに怠け者でないと思う私が実家では一番の怠け者になるくらい、皆忙しくしていた。
「誰に似たの」 夫に聞いた。
「あなたの家、皆働き者だし、皆親切で優しいじゃん。もしかしていいところ全部お義兄さんにとられた訳?」
似ても似つかない夫である。
ところが。
ベランダの緑のゴーヤカーテンをきっかけに夫が家庭園芸に目覚めたらしい。せっせと園芸用品を注文し、忙しいと言いながら、寸暇を惜しんで園芸用品を買いに行き、まめに世話を焼いている。
「パパあ」と狭い家で返事がない時はたいていベランダで植物の世話をしている。
そして、試しに植えたアボガトの種や、実家から送られたカボチャの食べ終わった種をまくと芽が出てすくすくと成長している。
母の日に買ってもらったクチナシも緑がますますきれいになっていく。
どうやら義母から唯一受け継いだのは「みどりの手」だったらしい。